【FILM】表具の箔押し職人を訪ねて
京町家に工房を構える表具職人
つっかけに作業着で自転車に乗り、至善堂(堀金箔粉)の店舗に現れたのは、長年お付き合いのある表具職人さん。この日の注文は「純金箔3号300枚」。
京都は社寺仏閣や景勝地で有名ですが、御所やお寺・神社に関係する職人の町でもあります。
至善堂のある中京区は道路が狭く、建物も多いので主な移動手段は徒歩や自転車です。条例によって整えられた区画で、今も町家と呼ばれる瓦葺き・格子窓の民家に暮らしている人がたくさんいます。今回訪ねたこちらの職人さんの工房があるのもその一角です。
”表具”はとても身近な暮らしの中の箔押し
表具(ひょうぐ)とは布や紙などを張ることによって仕立てられた巻物、掛軸、屏風、襖、衝立、額、画帖などの事、またはそれらを仕立てることを指します。箔押しの屏風や襖も多く存在し、平押しと呼ばれるグリッド状に歪みなく並べて金箔を押していく仕事もその一つです。
職人の仕事、職人の条件
接着剤の引かれた和紙にガイド線などを引かず、寸分の狂いもなくまっすぐに箔を置いていく様子はまさに職人技です。
表具を含め工芸の多くは分業制で、箔押しの工程も専業。師匠から受け継いだ技術を持ってこの道一本でやってこられました。「職人は器用さより慣れ」同じ工程をやり続ける事が苦ではないことが条件だと語ります。
箔押しの手順は職人や仕事の内容により様々ですが、まず、箔を和紙に転写する「あか写し」と言う下準備があり、次に接着剤を引いた長い和紙に箔を置いていきます。
こちらの工房では電気はつけず、掃き出し窓から入る自然光だけで作業をされています。
グリッド状に真っ直ぐ箔を押していく手法を「平押し(ひらおし)」と言います。
箔は箔箸を使い置いていきます。この箔箸は竹でできたピンセットのようなものなのですが、手に馴染むようカスタマイズされていると言う話を職人さんからよく伺います。
グリップを付けたり、よく”しなる”ように薄く削いだり…。この職人さんの場合は一度接合部を割って再度接着し、開閉しやすいようにしているそうです。
「僕には弟子がいなから棺桶にはこの箔箸を入れて欲しい」と笑って話して下さいました。
箔箸は相棒であると同時に、自分と繋がった手足同然のものなのでしょう。私たちも誇らしく、思わず背筋が伸びました。
師匠の姿に重ねて
今回撮影したイメージムービーを見て「僕の手の動きと箔押し姿が師匠と同じでびっくりした」と嬉しそうに話す表具職人さん。「職人は器用さより慣れ、同じ工程をやり続けること」と話してくださいましたが、彼も師匠と同じように日々の仕事を繰り返し、そのたたずまいや仕草や技術を繋いできたのでしょう。この工房には後に続くお弟子さんはなく、姿や技術を後に継ぐ人はいません。技術が途絶えるということは、工芸の灯火が一つ消えるということ。多くの伝統工芸分野で直面している存続問題がここにもあります。
今回の訪問で、連綿と続く表具職人の日常に関ってきたことをあらためて誇りに感じると同時に、繋いでいくことの難しさを実感しました。
京都の町家でひっそり続く職人技が人知れず途絶えていく。食い止めることは容易ではありませんが、このMagazine企画を通じて職人さんや芸術家に光をあてることが「光藝」を繋げる一助になることを信じています。