京都の能面師、寺井一佑氏vol.2 能面師ということ 金箔・金粉の通販は至善堂 – Shizendo

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「能面はね、急いで作ったらダメなのです。いつも余裕をもって、時間のある限り楽しんでやらないとね。命なきものと何度も何度も心を通わせて、見直す時間も十分にとって。それが魂を吹き込むってことだと思いますよ。」

それでもいまだに納品するときまで完璧と思えたことはなく、まだできることがあるのではと思い続けているそう。謙虚で柔和な印象を受ける寺井さんだが、若いころは作った面を叩き割ったこともあるのだとか。当時のことを「今はわかります。そういうのは大先生がやるから良いのであって、若い者のやることではないですよね」と微笑まれるお顔には、寺井さんの人生そのものが感ぜられる。作る者の魂が宿るなら、面には寺井さんのすべてが宿っている。次々に変わる寺井さんの表情と、面とが似ているように思えるのは、私だけではないはずだ。

【生きることつくること】

20代で木彫を学んだ寺井さんは、日本古来の、一人きりですべての工程をこなす能面師という仕事に魅入られ、その道に入った。分業が基本の工芸の世界ではそれだけでかなり異質な仕事だが、それから50数年、紆余曲折がありながらも仕事を続けてきた。
人生の軸となったのは、冨岡鉄斎の言葉「万巻の書を読み、万里の道をいく。」若いころから海外へと足を運び、今尚その心は変わらずに持ち続け、ワークショップや教室で様々な方とお話しするのが好きな寺井さん。「工夫して、面白がって、人生をやっていこうと決めたのです。ずっと勉強ですから。今度はドイツでワークショップをやりたいのです。」と笑うバイタリティさえある。ひとつやり遂げてもまだ先を見る寺井さんの目に光が宿っているのは言うまでもない。

【寺井一佑という能面師】

「私の教室にこられる方々は、厳しい社会を生き抜いてこられた方が多いのです。だからそんな方々が好きなことに没頭する時間を手伝いたいのです。私は若いころから社会に助けられてきましたから、恩を返したいという思いもあります。」
私が能面師と聞いた時に思い描いたイメージは、固く、こだわりの強い人だった。しかし寺井さんは、若い私より柔軟だった。けれど強い。
これからの能のことを、寺井さんは最後にこう語る。「能もね、初めて見た人にも言葉が聞こえて、ある程度伝わるように出来たら良いなと思うんです。高くて手が出せない方もいるでしょうしね。型を残すのと、繋いでいくこと、どちらも大切なことだと思います。」

それを聞いてハッとする。文化があるのは当然ではないはずだ。私たちも、文化がきちんとあるうちに、知る・見る努力はしていきたい。

寺井さんとわかれた帰り道、京都の能舞台を調べながら電車に揺られる。
好きな能面や衣装を見つけたり、自分なりの楽しみ方で能を鑑賞する、そんな時間をとってみたいと思わせてくれた寺井さんに感謝し、帰路へついた。

 

前編: 京都の能面師、寺井一佑氏vol.1 職人の工房

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Nohmask by Ichiyu Terai | 寺井一佑の能面

2,880時間かけて能面を製作するプロセス。50年以上能面を作り続けるベテラン能面師/Craftsmanship Process - SUIGENKYO